カレーを食べよう、その2

2020/10/04

チーズフォンデュクラブストーリー

僕は虫だ

「私の妻はとんでもなく臆病なのですよ。あなたが来ているなんて知ったら、恥ずかしがって絶対に出てきやしませんよ。さ、早く、早く」

冬一郎は、ラジャに急かされるまま、食器棚の影に身を隠した。そこからだと部屋の様子は何もわからないので、少しだけ顔を出そうとしたのだが、

「ダメですよ!私が良いというまで出てきてはいけません。妻を怖がらせないでください」と、ラジャに奥まで押し戻されてしまった。

ラジャは再び鏡を取り出し、身なりを整えると、冬一郎には動くなというような手振りをしてから、戸棚を離れた。

ーーこの人は、自分の奥さんが降りてくるというだけで、この気の使いようなのか…。新婚でお熱いとは聞いたけど、いやはや、すごいなぁと冬一郎は感心した。この豊かというか濃ゆい愛情表現は、やはりアメリカ人だからなのかなあ。新婚か…僕とベンだって、まだ新婚期間、みたいなもんだけど。

かちゃかちゃと食器のぶつかる音がする。棚からラジャが皿を取り出しているようだ。彼のご機嫌な鼻唄を聴きながら、冬一郎は仕方なく、ひんやりした壁に背中を預けて待った。

台所の暗がりに潜んでいると、なんとなく、自分が虫か何かになったような気がした。そう、自分は醜い大きなゴキブリで、ちらとでも姿を現そうものなら、この家の奥さんに悲鳴を上げて逃げられてしまうのだーーそんな自虐的な考えを、冬一郎は半ば楽しみながら弄んだ。幸か不幸か、冬一郎はこの手の想像が得意である。実際、ベンと出会う以前は、毎日どこにいてもそんな風に感じていたものだ。自分はキモい虫けらで、子供の頃から母親の恥で、誰にも見られてはいけないし、存在してはいけない。息もしない方が、いい…。

でもそこへ、ひょっこりベンのやつが来て、物好きにも僕をつっついて、拾いあげた。君は虫けらなんかじゃないよ、と言って笑ってくれた。

ベンはエキセントリックで、いつも何を考えてるか、分かんなくてーーでも彼がいなかったら、僕の人生はきっと何も起こらないまま、終わってた。ナタリアさんは僕を超クレイジーだと言うけれど、本当はそうじゃあなくて、ベンがそうさせるんだ。僕は本当はどこにでもいる、つまらない人間なのに、ベンのやつがーーベンのーー

ベン…?

あっ…。

ここへきてやっと、冬一郎は彼の事をはっきりと思い出し、次いで胸がゾッと冷えた。

デートの約束、喧嘩したこと、今日は長居なんかせず、早く帰ると言ったこと。2人でゆっくりスキンシップをとろうと申し出たこと。ベンのはにかんだ笑顔と、別れ際のハグと、キスで念をおされたこと。

どうしてーー何で全部すっかり忘れてたんだ、僕は!

「やあ、やっと出て来てくれたねえ」

ラジャが突然、驚くほど甘ったるい声を出したので、冬一郎は余計にぞぞっと震え上がった。

「可愛い、可愛い子猫ちゃん!こっちへおいで、お姫様!!」

こーー子猫ちゃん?おひめ、さま?!
冬一郎は耳を疑った。ラジャさん、僕がここで聞いてるのを分かってて、その上で自分の妻を、そんな呼び方してしまうのか?
すごい、と冬一郎は畏怖にも似た思いに打たれた。

これがアメリカ流の夫婦のコミュニケーションなのか。ここまでしないと、ダメなのか。ベンがいつも、僕からの愛情が足りないと愚痴るのはこういう事なのか…?

冬一郎は絶望して思わず床にへたり込んだ。だめだ。僕には、とても、真似できない。

僕、何時間、ここで料理してたかな?今すぐ帰れば、なんとか許してもらえるだろうか?甘い言葉のひとつも言えない上に、約束を何度も蔑ろにするのんて、僕は完全にアメリカ人のパートナー失格だ。だけど、ベン相手に子猫ちゃん、だなんて、口が裂けてもーー…。

 

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