当日、パークはとても混んでいましたが、ロンもごきげんだったし、僕もすごく楽しかったです。シンデレラの国王に扮したベンのやつは、それはもう大人気でした。写真を撮られたり、高校生くらいの女の子たちに声をかけられたりして、なかなか前に進めないくらいでした。いつもはミカさんと同じで街中で目立つことを嫌がるくせに、この日のベンの態度は普段と全然違って、本物のディズニーキャラクターよろしく、眩しい笑顔で手を振ったりしてました。ハロウィンモード全開、というやつなのでしょうか。
ただひとつ、どうやら少しガッカリしていたらしいことがあります。
ベンは、人から「王子様!」と呼び掛けられるたび、日本語で丁寧に「いいえ、私は王様ですよ」と訂正していたのですが、それに対する答えがたいてい「日本語上手ですね!」だったのです。
「俺は王様だって言ってるのに!」と彼は肩をすくめて言いました。「どうして普段通りの、つまんない答えが返ってくるんだろう?」
「あははは」僕は笑いました。「みんな、国王に対して『キミ日本語うまいね?』だなんて、えらく上から目線だよなあ。跪いて『陛下!』と言うべきところなのに」
「さすが冬一郎ちゃん」僕の言葉にベンは喜びました。「よくわかってるじゃあないか!この功績により、君をナイトに任じてあげよう」
「ははあ、ありがたき幸せ。さあ、弁当食いに行こうよ。これ以上のろのろすると置いてくぞ、陛下(Your Majesty)!」
僕が茶化して思いっきり偉そうに言うと、ベンは、ゲラゲラ笑いながらついてきました。