「そしたら俺は、今年も、大事な家族とクリスマスを過ごせたことになるだろ?」
冬一郎も思わず立ち止まった。
大事な家族ってーー? 僕が?君の?
ベンはにっこり笑った。
「それでさあ、来年のクリスマスは、アメリカで一緒にすごそう。 アメリカの俺の家族には、君のこと、恥ずかしいなんて絶対に言わせない。むしろ、みんな君を誇りに思うよ。俺が選んだ人だもの」
ーーなんだ、これ。まるで、プロポーズみたいじゃないか。
驚きのあまり、冬一郎はその場に立ちすくんで、答えることさえできなかった。しかし、だんだん胸の奥がじんわりとあったかくなってきて、これまで感じたことのないような、この上なく幸せな気持ちにあふれた。なんだか、涙が出そうだ。僕にこんな素敵なことを言ってくれる人がいるなんて、とても信じられない。これが、クリスマスの魔法というやつなんだろうか?ああ、それなのに、なんてこった…僕は、ベンに贈り物ひとつ、用意していない。
「なあ、プレゼント、何がいい。なんでも買ってあげるよ!」
「何でも?」
「ああ、何でも」冬一郎は勢い込んで言った。
「本当に、何でも。金がたくさんあるわけじゃないけど、君のためなら、全部はたいたっていいよ」
「要らないよ、そんなの」
ベンは急にニヤっと笑って、ふざけた調子で、マライア・キャリーのクリスマスソングを歌いだした。
「All I want for Christmas is you(クリスマスに欲しいのはあなただけ)♪」
雪は降らず、東京のビル群の上には星も見えず、プレゼントもなければ、豪華な食事もケーキも、何もなかった。それでも、最高のクリスマス・イブだった。2人は、LEDの光の海の中で、ドーナッツショップで買ったコーヒーを分けあいながら夢中で話し、一緒に暮らす計画を立てた。
ーーだがもちろん、その時はまだ、自分たちがもうふぐ子供を持つ親になろうなどとは、ほんの露ほども、思ってはいなかった。