名前の話シリーズ(2020年7月の記事の再投稿です)。
少々アダルトな発言があります、ご注意下さい。
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苦手なR音の名前なんて付けるんじゃなかった |
僕はロンを探していました。
「ロンちゃん!ロン!」
何度呼んでも、いつものパタパタ可愛い足音や、キャッキャという笑い声が聞こえません。
「ロンちゃーん!」
心配になり、僕は何度も呼び続けました。すると、やっと遠くに、ロンの小さな背中が見えました。
「ロンちゃん、どうしたんだい、パパが呼んでるのが聞こえないのかい?」
僕が走り寄ると、ロンは、くるりと首を回して僕を見ました。
そして、こう冷たく言い放ちました。
「あのさあ。何度言ったらわかるの?ぼくは、ロン(Lon)じゃなくてロン(Ron)なんだよ。息子の名前も分からない癖に…父親だなんて言えんの?」
あああああR!!!
夢でした。
大声(R音)で叫びながら飛び起きたので、隣で寝ていたベンが驚いて目を覚ましたようでした。
「どうしたの、冬一郎ちゃん。エクソシストごっこ?」
あくびしながら聞くベンに、悪夢の恐怖が覚めやらぬ僕は、しがみついて頼みました。
「ベン、お願いだ、今度また僕がLとRの発音間違えたら、思いっきり引っ叩いてくれ!」
「ええっ…?」
「君が厳しくしてくれなきゃあ、僕は人生おしまいなんだ!」
「ちょっと、君、落ち着けよ」とベン。「何なんだい、いきなり殴れだなんて、また被虐趣味的なこと言っちゃって。大丈夫かい?」
「大丈夫じゃない。このままじゃ僕はロンは僕を父親と思ってくれなくなる。なんで僕は子供の名前をわざわざRで始まるやつなんかにしちゃったんだろう?」
「まあ、それはちょっと思ってたけど」
「思ったなら止めてくれよ!」
「被虐趣味の君のことだから、わざと難題を設定して苦しもうとしてるのかな、と」
な、何だって?僕は耳を疑いました。信じられない、なんて酷いヤツーー絶句して口をパクパクさせていると、ベンは急に嬉しそうに笑いだしました。
「あっはははは!冗談だよ!君からかうの面白いなあ、やめられないよ…」
あまりに意地悪なので、僕は今度こそ本当に頭に来ました。こっちは本気で頼んでるっていうのに!もう二度と、こいつに助けなど求めるものか。英語のネイティブスピーカーのくせに、いや、ネイティブだからLとRの痛みが分からないんだな。この役立たず、ばかやろう!
「大丈夫だよ、冬一郎ちゃん」
フンとばかり寝転がった僕の背中に、ベンが慰めるような優しい調子で声をかけてきました。
「怒るなよ。ロンは、俺たち2人で頭ひねって考えた最高の名前じゃないか。心配しなくても、君の発音はとてもきれいだよ。君がロンの名前の発音を間違えたことなんて、一度も聞いたことない。頑張ってるよな、偉いよ」
ベンが今さら何を言おうと、僕の怒りはおさまりませんでした。翌朝、僕は、ベンがいくら僕を呼んでも、返事してやりませんでした。
喧嘩してばかりです。でも今回は、絶対ベンが悪い。