スウェディッシュミートボールとベッド、その3

2020/12/21

チーズフォンデュクラブストーリー

その夜、冬一郎は、実に久しぶりに一晩を通してぐっすりと眠った。


耳栓をした上から、遮音機能のあるヘッドホンを重ねたので、ロンの泣き声も聞こえなかった。
誰にも邪魔されずに睡眠をとる、というのは、何と贅沢で気持ちの良い事なのだろう。
夜がまるで一瞬で過ぎたかのような深い眠りのために、冬一郎は自分の眠るベッド周りで起きたことを一切感じなかった。

だから彼は、初めて赤ん坊の夜泣きに付き合ったミカエルの苦戦と奮闘を、全く知らない。

ミカエルとベンが、日本とアメリカの育児書を読み比べながら対策について熱く議論した事も知らないし、謎のロックンロールを子守唄に歌ってロンをあやしたことも知らないし、最終的にベビーベッドに戻すのを諦め、冬一郎の隣に寝かせて、ロンが冬一郎の体に潰されないように色々案じたことも、知らない。

そして翌朝、冬一郎が目を覚ますと、同じベッドに4人全員がぎゅうぎゅうに身を寄せ合って寝ていた。

パパ3人

すぐ目の前ではベンが横向きで寝息を立て、後ろを見やると、仰向けのミカエルの大きな胸の上に、ロンがのっかって、静かに上がり下がりしている。頬には、涙の跡がはっきりついていた。よほど激しく泣いたのだろう。

冬一郎はミカエルがベッドから半分落ちているのではないかと心配になり、少し身を起こして確認した。

ーーよかった、なんとかギリギリ、おさまっている。
さすがはIKEAで買った北欧規格のベッドというところか。購入時は、こんな巨大なベッドを狭い日本の家に押し込むなんてめちゃくちゃだ、と大反対したのであるが、今となっては、絶対大きいほうがいいというベンの言うことを聞いてよかった、と思った。

冬一郎はそっとベッドを這い出ると、ロンの体に手を回し、慎重に慎重を重ねて、ミカエルの胸から抱き上げた。ミカエルは一瞬はっとしたように目を覚まし、ロン、と呼んだが、冬一郎がしーっと言いながらうなずいて見せると、彼も安心したようにうなずきかえし、すぐまた眠りに落ちた。

ロンを別室のベビーベッドに運んで無事に寝かせた冬一郎は、再び、寝室の様子を見に戻った。

ミカエルとベンは、無意識に広さを感じて、寝返りを打ったようだ。ベッドの上で手足を伸ばし、ぐーぐー、少しいびきさえかいて眠っている。その光景をぼんやり眺めながら冬一郎は、思い出さずにはいられないことがあった。

そう…あれはこのベッドを買った、まさにその日のことであった。

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