スウェディッシュミートボールとベッド、その4

2020/12/29

チーズフォンデュクラブストーリー

 当時、冬一郎はベンと付き合いだして数ヶ月ほどだった。ともに暮らそうという話になり、一緒に使う家具をみようと、2人でIKEAに行ったのだ。

IKEAは、スウェーデン発の、インテリアを扱う会社で、世界中に店舗を展開している。自分で組み立てる方式の、手ごろな価格の家具が売りだ。ベンと冬一郎がここを選んだのは、安いからというだけでなく、製品が欧米サイズだから、という理由が大きかった。ベンは、普通の日本の布団では、寝返りをうった拍子にすぐ足がはみ出て、寒いと不満をこぼしていた。

冬一郎がIKEA にいくのは、それが初めてだった。巨大な倉庫のような店舗スタイルや展示ルームが物珍しくて、キョロキョロしていると、ベンはさっさと寝室のディスプレイを見つけ、いきなり横になって眠り始め、冬一郎をびっくりさせた。

「ベン、止めろよ。店で本気で眠る奴がいるか、起きてくれ」

「なんで?」とベン。

「ちゃんと寝ないと、自分に合うベッドかどうかわからないだろ?」

「そりゃそうだけど、普通は、ちょっと手で押したりしてマットレスの柔らかさを試すくらいだろ。なにを本格的に眠ろうとしているんだよ。恥ずかしいよ」

「ふーん、なんでも恥ずかしいんだなあ、君は」

ベンはのびをしながら、再び勢いよく寝転がった。

「一度ちゃんと眠りもせずに、使えるベッドかどうか、なぜ判断できるのさ。俺は、使えないベッド買いたくないから、少なくとも2、30分は眠ってみるよ。ほら、君も寝たら?」

彼は自分の隣をポンポンと叩いて示した。

「い、嫌だよ」冬一郎は赤くなって固く拒否した。

「なんだって人前で、男同士のベッドシェアを宣言しないとならないんだよ、バカ!」

「そうかい。じゃ、あとで寝心地が合わなくても、文句言うなよ」

ベンは目を閉じた。周囲の客がベンをみてくすくす笑っているが、お構いなしだ。

「みて、あの外人さん、本当に寝てるわ」

人々が噂を始めるのを聞くと、冬一郎は恥ずかしさのあまり他人の振りをすることに決め、その場を離れた。

サンプルのベッドで寝るやつ

そして、一、二時間があっという間に経過した。

冬一郎は、ぶらぶらするうちに行き当たった子供部屋のディスプレイに心奪われて、すっかり離れられなくなってしまったのだ。

カラフルで丸っこいデザインの、小さな家具。動物の形の照明の光。柔らかいぬいぐるみやおもちゃ。子供が好きな冬一郎にとっては、一つ一つが、まるで憧れそのもので出来ているかのような、夢の空間だった。なんて可愛いらしい世界なんだろう!ああ、いいなあ、もしも、自分に子供がいたらなあ…!

その頃の冬一郎はまだ、親になるチャンスがもうすぐ自分に降ってこようなどとは、夢にも思っていなかった。冬一郎はすぐ、一瞬でも「子供」などという考えを弄んだ自分を嘲笑して、心の中で叱り付けた。

ーーバカだな、僕は。僕が父親になんてなれるわけがないじゃないか。

僕なんか、本当は、毎日一人でカップラーメンか何か食べながら、孤独に暮らす運命なんだ。生まれて初めて恋人ができたことさえ、奇跡なんだぞ。彼が一緒に住もうって言ってくれているんだから、しがみつかないとダメじゃあないか。たとえそれが奇妙キテレツなガイジンで、たった今、サンプルのベッドでぐーぐー眠って他人に笑われているようなヤツであっても、我慢するんだ。

あーあ…。ノーマルに生まれたら良かったのにな。

すぐ隣で、生まれたてみたいに小さな赤ちゃんを連れた若い夫婦が、ベビーベッドを吟味しはじめた。
「これでいいじゃん、さっさと買って帰ろうぜ。組み立てるの面倒くさくないといいなあ」
「ちょっと!お祝いにもらったお布団と、サイズが合わないじゃない!ちゃんと見てから買うって言ってよね!」
軽く口論をしながらも幸せそうなその様子を見て、急に、冬一郎は自分でも驚くほど激しい、怒りのような感情を覚えた。胸が締め付けられて、苦しいくらいだった。

ーー不公平だ。もし僕が普通に結婚することさえできたなら、普通に女性を愛して、幸せにすることさえできるなら、僕はきっと、こんな男より、ずっといい父親になってみせるのに!

行き場のない謎の嫉妬を、通りすがりの相手に理不尽にぶつけながら、冬一郎は逃げるように子供部屋のエリアを離れた。

それから、うつむいてのろのろ歩き、寝室のコーナーに戻った。
見れば、先ほどベンの寝ていたベッドは、空である。

どこへ行ったのだろう。
彼も1人では恥ずかしくなって、移動したのかな。

少し背筋を伸ばしてあたりを見回すと、しかし、向こうの、展示室内で一番大きなベッドに、悠々と横たわっている外国人の姿がみえた。

しかも、なぜか、脚が四本…? 人数が、増えてる!!

客たちがみんなジロジロみている。あの2人、思いっきり眠りこけてる!ああ、もう、勘弁してくれ!

冬一郎が走り寄って乱暴に揺り起こすと、ベンはうーんと呻いて伸びをし、ミカエルは目を少し開けて、

「ーーなんだ、お前か。どこ行ってた」と、ぶっきらぼうな調子で言った。

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