パンケーキレシピシリーズ、再び。
このところ(シンコ・デ・マヨのメキシコ料理以外)、ひたすらパンケーキばかり焼いている僕です。なぜかというと、簡単に作れるし子供に食べさせるのも楽だからです。最近、めっちゃ忙しくて…。「子供は大きくなるにつれて手がかからなくなるから大丈夫」ーーなんて、前に児童館の先生に言われたけれど、ほんとうですか、それ?ロンちゃんの行動範囲が広がれば広がるほど、大変度が増して、目が回るように思うんですが。もちろん、仕事がたてこんでるってのもあるけど。
さて今回のパンケーキは、僕じゃなくてミカさんが作ってくれました。
僕が遅く帰った日、焦りまくりながらキッチンにいくと、ミカさんが立っていました。オーブンからは、甘くて優しい匂いがしていました。ああ…こんなに嬉しいことって、ない。僕の気持ちは瞬く間にとろけて、幸せになりました。
「ありがとうございます、ミカさん。すみません、僕、今日も遅くなってしまってーー何を作ってるんですか?」
「パンケーキだ」
「…」
この時、ほんの心の片隅ででも『あれ、またパンケーキ…』と思ってしまった自分を、僕は憎みます。こんの贅沢者め!!自分だって忙しくてパンケーキしか焼けないくせに、ミカさんの作ってるのが同じメニューだからって、文句たれるんじゃない!
「最近、お前のブームだろ」と、ミカさんが言いました。
「え?」僕は聞き返して、思わず苦笑いしました。
「いや、ブームってわけじゃないですよ。ただ、パンケーキならすぐ焼けるし、ロンが喜んで、じょうずに一人で手掴みで食べてくれるから、楽なんです。それでつい」
「そうか」と、ミカさん。それきり、彼は沈黙しました。
静かな時間が訪れました。僕は、目まぐるしかった一日のうちで初めて、ほっと一息ついた気がしました。あたたかい空間。ケーキのにおい。優しくて素敵な人の、隣。ーー心の中では、僕は自分を叱りつけて、『僕は何してるんだ、せっかく夕飯を作らなくていいのだから、その間にロンをお風呂に入れたり、洗濯機回したり、絵本を読んだりしてあげないと!さあ、いますぐキッチンを出て、ロンに見せているテレビを、消しに行くんだ!』と、何度も言い聞かせました。でも、ミカさんの側があまりに心地よくて、僕は動きだせませんでした。甘酸っぱい、素晴らしい香り。何だろう、いちごかな。もうすぐ取り出す頃かな、楽しみだな。彼の手にかかると、僕のオーブンも、まるで魔法がかかったみたいにきれいなケーキを焼くんだーー
「ーーあれ」
僕はふと気づいて、聞きました。
「パンケーキ…なんですよね?なぜ、オーブン使ってるんです?」
「オーブンパンケーキなんだ」と、ミカさん。
「あんまり説明になってないですよ」と、僕。
「うん。フライパンでいちいちひっくり返すのが手間だから、パンケーキの生地をオーブンにぶち込んでいっぺんに焼いちまってるのさ。ウグンスパンカーカ、文字通り、オーブンパンケーキ、というんだ」
実は、日本のホットケーキと違い、スウェーデンのパンケーキは、クレープのようにとても薄いのです。
一回に使用する生地が少ないので、焼く回数がとても多くなり、長時間フライパンにつきっきりにならないとなりません。それをやりたくないならば、いっそオーブンに生地を全部放り込んでケーキのように焼いてしまおう、ということらしいのです。うーん…。上品さから大胆さへの変換が、極端というか、なんというか…。少しミカさんらしくもあるけれど。
「豆スープ、一応あるぜ」と、ミカさんが付け加えるように言いました。
僕は、木曜日にはパンケーキと豆スープを食べる、というスウェーデンの変わった食習慣のことを思い出して、笑いました。
「あ。そっか、今日、木曜日でしたっけ?」
「ああ」
ミカさんも僕の方を見て、嬉しそうにニコッとしてくれました。彼の微笑みに、頭が何やらぼうっとなって、僕は、ミカさんがミトンを取ったり鍋敷きを用意したりするのを、手伝いもせずにただただ見ていました。やがてオーブンから神々しく出てきたのは、それはそれは美味しそうに湯気をたてる、イチゴやベリーがたくさん焼き込まれたウグンスパンカーカでした。
オーブンパンケーキ、ウグンスパンカーカのレシピ
Oven Pancake, Ugnspannkaka
材料(パイ皿L人分)
作り方
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