「ウグンスパンカーカ」の夜の話の続きです。
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ウグンスパンカーカ(その1)へ |
テーブルにウグンスパンカーカを運ぶと、ロンが「わあー!」と歓声をあげました。イチゴがたくさん焼きこまれているのがとても嬉しかったらしく、「いちご、いちご!」と言ってぴょんぴょんはしゃぎました。
僕はとても幸せでした。
忙しかった一日の終わりに、まるでご褒美みたいに、大好きなミカさんの手作りケーキが待っていて、栄養満点の豆スープもあって、ロンが、天使みたいに可愛くって。この世でこれ以上望むことなんて、何にもないや、と思ったくらいです。
パンカーカはオーブンから出したてで熱々だったので、ミカさんが切り分けて、少しずつ冷ましながらロンに食べさせてくれました。鳥の雛みたく口を開けて待つロンは、美味しそうに2、3切れを続けてパクパクとたべましたが、ミカさんが4切れ目を運んでくれた時、急に首をふり、僕の方をさして、
「ミチャ、パパにも、あーん!」と言いました。
ミカさんは、ロンに指図されるまま、僕に向き直り、「ほら」と何の気なしに、パンケーキをのせたフォークを差し出してきました。
不意をつかれて、完全にリラックスしていた僕の心拍数は、ガッと急激に跳ね上がりました。
僕なんかを相手に、あーん、だなんて、そんな、そんな…恋人同士でさえ恥ずかしいようなことを、ミカさんにさせるわけに、いかない。だけど、この成り行きで僕が食べるのを拒否したら、変に意識しているみたいで、かえって気持ち悪く思われてしまうかもーー。
ここは多分、何も考えないで食べてしまうのが一番いい、でも困ったことに、僕はもう既に胸がバクバクして、自分でも分かるくらい、頰が赤くなってる。うわああ、一番やっちゃまずい反応だろ、これーー!
「パパ、あーん、だよ♡」
無邪気なロンが、僕に追い討ちをかけました。僕は、それ以外どうしていいか分からずに、「あーん…」と余計な効果音まで入れて口を開け、ミカさんにパンケーキを食べさせてもらいました。
「だいじょぶ、パパ?」
ロンはベビーチェアに立ち上がって僕の頭をポンポンとしました。アーンされたり、ヨシヨシされたり…。僕はもうおかしくてたまらなくなりました。あははは、と思わず腹を抱えると、ロンは喜んで、一緒にキャッキャと笑い出しました。ミカさんも首を傾げつつ、
「どうしたんだ、お前?」と、つられたように笑ってくれました。
3人で声を立てて笑って愉快な気分にひたりながら、夜がゆっくりふけていきました。
*
*
「そら。もう一口、あー、しなさい」
ミカさんがロンに言いました。するとロンは再び首を振り、
「それは、ダディにあげるの!」と、言いました。
そういえばベンのやつ、仕事部屋からさっぱり出てこないな、と僕は、彼の書斎の方を見やりながら思いました。
「おまえのダディは、いま、集中してものを考えてるのさ」
ミカさんは微笑みを浮かべ、うっとりするほど優しい声で言いました。
「おまえは、おもいやりのある子だな、ロン。俺は、おまえが大好きだよ」
ああ…。僕は、まるで自分が誉められたかのように、恍惚となりました。ロンはただにっこり笑って、
「うん♡」とだけ、答えました。
続きます。