バナナズ・フォスターの話の続きです。
これまでの話: 僕はパートナーのベンの機嫌を再び損ねてしまい、なんとか仲直りしたいと思っています。前回→バナナズ・フォスターその7
僕はバナナ片手に、もう一方の手でスマホを握り、ラジャさんがメールで送ってくれていたレシピをチェックしました。注意事項が実に丁寧に細かく列挙して説明してあり、読み終わるまでに少し時間がかかるくらいでした。全てを頭に叩き込んでから手を洗って、バナナを慎重にむいていると、ベンがキッチンへやってきました。
「俺は君に戻ってこいって言ったんだ」
彼は非常に不機嫌に顔を赤くしていました。「話し合いの途中だったのに、一体何してるんだよ」
「デザートを作ろうと思ってさ」僕は答えました。
「お互いヒートアップしたまま口論したって、喧嘩になるばかりで、仕方ないだろ。甘いものを食べて、クールダウンしよう。君の誕生日だから、ちょっとスペシャルなことをしたいんだ…待っていてくれないか」
できる限り優しい猫なで声で言った甲斐あってか、ベンも渋々、ーーうん、分かったよ、と頷きました。それきり、彼は壁にもたれてそっぽ向いてしまいました。
僕はバナナを鉄製のスキレットに入れ、バターとナイフを用意し、シナモンを保存している缶の蓋をあけました。たちまち、キッチンが甘い香りにつつまれ、僕は気持ちがふと柔らかくほぐれるのを感じました。ベンも同じだったのでしょう。気づけばすぐ僕の横までやって来て、すんすん、子犬みたいに空気の匂いを嗅いでいました。
僕は砂糖の壺を取りました。
キラキラ光るグラニュー糖とシナモンを合わせ、シナモンシュガーを作りました。そして、スキレットに、ベンの大好きなバターをたっぷりと落として火にかけました。
溶けたバターが香ばしい泡を作ってブクブクと音を立て、バナナが美味しそうに焼け出すと、僕はすっかり気分が良くなりました。
「愛情(バター)、ケチってないよ」
僕が笑いかけると、ベンも、にこっと微笑み返してくれました。
「君にしちゃ、サービスなんだろうな。でも、もうちょっと増やしてくれても全然いいよ」
「ダメさ。これからフランベするんだ。あまりたくさん油しいて、手をつけられなくなったら困るよ」
「フランベ?火をつけるのかい?」
「ああ」
僕はベンに少し下がるよう促し、スキレットに強いブランデーを注ぐと、チャッカマンで一思いに火をつけました。一瞬、きれいな炎の柱がめらめらっと高く立ち上がり、ベンも僕も興奮して歓声をあげました。火はあっという間に消えましたが、僕らの心拍数は速くなったまま、出来たてのソースをワクワクして確認しました。