バナナズ・フォスター、その9

2021/10/22

チーズフォンデュクラブストーリー

バナナズ・フォスターの話の続きです。

☆アダルトな内容の会話が含まれますので大人の方のみお読みください。

これまでの話。僕はパートナーのベンにパスタ・プッタネスカと、デザートにバナナズ・フォスターを作ってあげました。

前回の話バナナズ・フォスターその8


「さっきは、怒鳴ったりして、ごめん。冬一郎ちゃん」

ベンが、鼻にかかったような優しい声で言いました。

僕らは、再びダイニングテーブルについて、ひとつの皿に盛ったスペシャル手作りデザートを、仲良くスプーンでつついて分け合って食べていました。僕は、熱々のバナナと、冷たいアイスクリームとの甘いマリアージュに舌も心もとろけて、メロメロでした。ブランデーで酔っ払ったのかもしれません。

「んん。君は全然悪くないよ、ベン」

と、僕は答えました。自分で少し驚くくらい、トロンとした甘ったるい声でした。「君が謝る必要なんて、これっぽっちもないさ…君は結局いつも正しいんだよ…本当さ…やり方がちょっぴり奇抜なだけで…」

「俺はただ、悔しかったのさ。いつも俺ばかり君を欲しがって、駄々こねてるみたいだろ。君が俺のこと本当に愛してくれてるのか、時々、不安になるんだよ」

「うん、もちろん、愛してるよ」

いつもなら、照れくさくてなかなか発音できないこの言葉が、ごくナチュラルに僕の口から出てきました。あれ。なんだろ、すごいぞ、僕。この素晴らしいデザートと、ラジャさんの指導のおかげに違いないーーそれともお酒かなーーいずれにしろ、ラジャさんが助けてくれたからだ。僕は心の中で、ラジャさんにめちゃくちゃ感謝しました。ーーよーし、今なら、どんな小恥ずかしいような事でも、さらさら言えてしまう気がするぞ。この際、普段伝えられないでいることを、思いっきり並べてしまえーー

「君はさ、ベン、もう少し僕のこと信じてくれるべきだよ」

僕はスプーンの先でアイスクリームをつんつん突っつきました。

「君は、僕の人生の全て、なんだからさ。だって僕が今持っている幸せは、全部、君がくれたものなんだ。あったかい家族と、世界一可愛い子供と、親切なたくさんの友達とーーぜんぶ、本当にぜんぶだよ」

雄弁にベラベラ喋りながら、僕は調子に乗って、演説するかようにスプーンを振りました。

「いいかい、君がいなかったら、僕は一人きりで、虚しい人生を送ってたんだよ。ベン、君は本当に、素晴らしい人だーー頭が良くて、考えが自由で、いつも笑顔で、誰にでも優しくて!だからみんな君のことが大好きだ。なぜ君が僕なんかを選んでくれたのか、今でも信じられないよ。本当に、僕みたいな奴は、君に捨てられたら、お終いさ!だから、君が不安に思うことなんか、何にもありはしないだろ!」

「なんだ、酔ってるのかい、冬一郎ちゃん」ベンが面白がって茶化してきました。

「フランベしたのに、アルコール飛ばなかったのかな。それとも君、こっそりブランデーをショットか何かで飲んだのかい」

僕はえへへ、と少し笑いました。

「ショットなんかじゃないよ、ちょっとなめただけさ。味見だよ。マリさんがいつも言うんだよ、料理に使うワインに、そのまま飲めないようなワインを使うんじゃあないって。だからさ、ブランデーもちゃんと美味しいかどうか確かめないと、だろ?」

「ふーん、マリちゃん、またマリちゃんの話か」

ベンは何やら疑わしげに眉を顰めました。

「さっきのプッタネスカといい…本当に、今夜のディナー、彼の入れ知恵じゃないんだろうな? 冬一郎ちゃんにしちゃあ、メニューの選択が奇妙なんだよな。なんというか、君らしくない。正直に言えよ、冬一郎ちゃん。君、俺の誕生日のこと急に思い出して、慌ててマリちゃんに相談したんだろ」

「ち、ちがうよ。誰にも相談なんかしてないよ」

僕は慌てて首を振りました。自分を信じろと言ったそばから嘘をついたわけです。しかし、ラジャさんのことを吐いてしまうと、せっかくいい雰囲気になったものがまた壊れてしまいます。ベンは、ふーむ、と探るみたいに僕を見ました。でも、怒っている風ではなく、やはりどこか面白がっているようでした。

「嘘ついてるね。冬一郎ちゃん。俺のこと舐めるなよ、俺は君のことよーく知ってるんだからな。君ってやつは見かけによらず嘘つきなんだ。俺にはすぐ分かっちゃうけどね」

「し、失礼だな。それなら聞くけど、今夜のメニューの、いったいどこが僕らしくないっていうんだ」

「なんというか、セクシーすぎる」

ベンの言わんとすることは、実際、僕にはよくわかりました。パスタ・プッタネスカは名前からしてとてもセンシュアルで、そのボリュームとオリーブのフルーティさは、肉感的という言葉が相応しいと思われました。デザートの方はさらに官能的というか、シナモンシュガーをたっぷりまぶした、茶色と白のまだらなバナナから、強いお酒がポタポタとしたたり落ちる様は、見た目も甘い香りも、まさにエロティックとしか言いようがありませんでした。

「確かに僕らしくないな」

僕は認めました。「セクシーすぎる。僕は全然セクシーじゃないもんな」

「そうは言ってないよ。君の料理や態度はいつも全くセクシーじゃないと言ったんだ。けれど、君自体は、いつ見てもとてもセクシーさ」

ベンが妙なフォローをかけてきました。

続きます

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