バナナズ・フォスターの話の続きです。
☆アダルトな内容の会話が含まれますので大人の方のみお読みください。
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これまでの話。僕はパートナーのベンにパスタ・プッタネスカと、デザートにバナナズ・フォスターを作ってあげました。
前回の話バナナズ・フォスター、その9
「確かに僕らしくないな」
僕は認めました。「セクシーすぎる。僕は全然セクシーじゃないもんな」
「そうは言ってないよ。君の料理や態度はいつも全くセクシーじゃないと言ったんだ。けれど、君自体は、いつ見てもとてもセクシーさ」
ベンが妙なフォローをかけてきました。
「身体つきも、顔だちも、最高にキュートで、夢中になっちゃうよ。俺をこんなにクレイジーにさせといて、でも君は、毎回全然セクシーでない態度とって俺をガッカリさせるんだ。ずるいよな、ほんと」
「そりゃ、すまなかったね」
ものすごくおだてられているのか、ものすごくけなされているのかが分からず、僕は謝りましたが不満でした。よし、そんなに言うなら、今夜はとことん僕らしくなく、セクシーに振る舞ってやろうじゃないか。
僕はバナナズ・フォスターの甘い香りを胸いっぱい吸い込み、まわってきた酔いの勢いに任せて、再びスプーンでアイスクリームをつつきながら言いました。
「あのさ…。日本語では、燃え上がるようなキスのことを、『熱い口付け』というんだけど、あれ、違うんだよな」
「?、どういうことだい」
「僕、知ってるのさ」
あ、本当に言ってしまうんだろうか、こんなこと。一瞬ためらって、僕は赤面しましたが、今更引っ込めるわけにもいかず、続けました。
「本当に燃え上がってる時ってさ…君のキスは、ひんやり冷たいんだ。ちょうどこのアイスクリームみたいに」
「本当かい?」
ベンは驚いて、少し考えました。
「まあ、あり得るかもね。だって、性的な刺激を受けると、血液は下の方に集まるからさ、唇みたいな毛細血管はきっと、真っ先に収縮するんじゃあないかな」
「そんな科学的に分析してくれるなよ」僕は苦笑いしました。
「ロマンチックじゃない奴だなあ。僕がせっかく甘い言葉を使おうとして、デザートに例えてるってのに。…とにかくさ、僕は、君とキスして、君の唇がひんやり冷たいと、とても嬉しいのさ。君が、僕を相手にちゃんと興奮してくれてるとわかるから」
「そんなの、俺の下のバナナの形をみれば一目瞭然じゃないか?」
「ベン、君は本当にロマンチックじゃないやつだな!」
「君と全く同じ例えを使ったのにかい?フェアじゃないね」
彼はスプーンでバナナズフォスターの下の方をつっつきました。熱いバナナの端がとろりとくずれて、アイスクリームの海に落ち、混じりあいました。それがまたやたらエロティックだったので、僕は大いに咳払いしました。
「とにかくだよ。君の、その、下のバナナをどうこうする前に、唇の温度だけで君が感じてるのがわかるというのが楽しいんだよ。だから僕は、君の熱くない、冷たいキスが、とても好きなんだ」
「でも冬一郎ちゃん、それってやっぱり、ずるいよ」
ベンは機嫌を損ねたように鼻を鳴らしました。
「ふん、やっぱり、君の俺への愛は足りないんだな、とても許せないよ」
「なぜ怒るんだい、僕は君のキスが好きだって言ってるのに?」
「だって、俺は、君のキスを冷たく感じたことは一度もないもの」
ベンは恨めしそうに、低く唸りました。
「つまりさ。毎回、俺の体は、君の体が反応するよりずっと先に興奮してるってことだろ、それ。君の唇はまだ温かいのに、俺のは冷え切ってるーーずるいよ。俺も、君のキスを、冷たく感じてみたい」
僕はちょっと首をひねりました。よく考えると、どうやら、ベンの主張の方が、僕よりも正しいようでした。思い切ってロマンチックに振舞ったつもりでしたが、かえって相手を傷つける発言をしたのかもしれないな、と、僕は残念に思いました。やれやれ、やはり似合わないことはするもんじゃあないなあ。僕は、ほとほと、ダメな奴だな…。
仕方ないので、僕は、返事の代わりに、顔を寄せてベンにキスしました。この流れでは、そうすべきに違いないと思ったのです。
「あったかいよ」ベンは文句を言いました。「もっと唇を冷やせよ、冬一郎ちゃん」
そこで僕はもう少し頑張って深いキスをしました。アルコールの助けもあったし、ずっとセクシュアルな会話をしていたのもあり、気分はそれなりにのっていたのです、が。
「全然冷たくないよ、冬一郎ちゃん。君のキスは、熱い。日本語の通りじゃないか。まるで燃えてるみたいだ」
「それは君の唇がもう冷たくなってきているせいだよ、ベン。困ったなあ、君の反応は早すぎるのさ」
「ちぇっ、ひどいな。冬一郎ちゃんめ。なんだって君はそう、ハートの方ばかり冷たいんだよ」
そんなことないさ…みてろよ、と僕はスプーンを2つとり、バナナとアイスをそれぞれにすくいました。まだ熱を持つ温かいバナナをベンの口に持っていき、自分の口にはアイスクリームを当てて、唇を冷やしました。そしてすかさず、彼にキスしてやりました。
「これでどうだい。冷たいだろ」
自信満々に言うと、ベンは吹き出して笑いました。
「馬鹿だなあ。こんなんじゃ、君の唇の冷たい意味がないじゃないか。まあ、すごく甘いキスだってことは、間違いないけどさ」
抗議しながらもベンがにっこりしてくれたのをみて、僕も一緒に笑いました。僕らはそのままソファに転がって、バナナズフォスター味のキスを何度も交わしている間に、やがて力尽きて、眠ってしまったようでした。
気づけば、夜があけて、朝でした。
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☆一晩の思い出をめちゃくちゃ長く引きずりましたが、バナナズフォスターの話はこれで一応おしまいです。
妙な惚気話に長々お付き合いいただきありがとうございました。
え?ベンの誕生日?8月でした。 あははは(^^;;