最高のパンケーキ、その3

2021/12/07

チーズフォンデュクラブストーリー

☆「最高のパンケーキ」の話の続きです。

前回の話:最高のパンケーキ、その2

これまでのあらすじ。冬一郎とベンは、ベンの嫉妬が原因で大喧嘩をし、冬一郎は夕飯用のウグンスパンカーカ(オーブンパンケーキ)を焦がした。遅れて帰宅したミカエルは、ベンを探すべく、再び外に出た。


パンケーキ。それはシンプルで、安上がりで、すぐに腹が満たされる、素晴らしい食べ物。

夜道を足取り軽く歩きながら、ミカエルは一人微笑んだ。

パンケーキを作るのは、この上なく簡単だ。失敗する方が難しいくらいだ。たとえ中が少々生だって、たとえ少々焼きすぎたって、焼き立てを食えばそこそこ美味しいものなのだ。それなのに。

『冬一郎の焼くのはクソ不味い』

そうベンが言ったらしい。実際、冬一郎は、俺が教えてやったオーブンパンケーキを、とても食えそうにないまでに、見事に黒焦げにしていた。本人には言わなかったが、一体どうしたらああなるんだか。ロンがいると料理に集中するのは大変だというのは分かるが、今夜はベンも早く帰っていたんだから、理由にならない。

「俺、今日さ、早く帰りたいんだ。調子が乗らないんだよ」

研究室でベンは言った。

「悪いけど、あと片付けといてくれるかい? たまには俺も家でゆっくり、ロンちゃんとご飯食べたり、遊んであげたりしたいしさ。でないと、なんだか君に負けそうだ」

ーー負ける? 俺に?

ミカエルは驚いて聞き返した。

「一体何の話だ?」

「別に。これなんだけどさ、頼むよ。いいかな」

「ああ、もちろん」

ベンが雑に押しやってきた書類を、ミカエルは快く受け取った。今日は月末。例の報告書を提出しなければならない締め切り日である。この忌々しい「研究成果自己評価報告書」とやらは、単なる形式的な書類で、何の証明にもならない無意味なものであるのに、なぜか日本語での手書きが義務付けられており、書き間違えたら、自分の名前のハンコなるもので赤くマークして間違いを犯したことを「認め」るか、さもなくば、一から全て書き直さないとならないという、不可解極まりないルールがある。当然ながら、研究所の外国人メンバーは皆、この書類を憎み、嫌っている。見れば、思った通り、ベンの用紙はまだ真っ白だった。要するに丸投げされたわけであるが、ミカエルは運営側に対して怒りを新たにしこそすれ、ベンに対しては全く不満に思わなかった。むしろ、俺を完璧に頼ってくれている、と強い喜びさえ覚えつつ彼の背中を見送り、その後、2時間居残って評価書を書き上げたのだった。マリオに話せば、目をむいて呆れられるだろう。いくらなんでもやり過ぎだ、ベンを助け回るのは止めろと。だがなぜだ? 俺が喜んでやっているのだから良いではないか。大体、ベンのような天才が、こんな事務的で下らない書類処理に苦しめられることがあってはならないのだ。前の会社もそうだった。日本は間違っている。大いに間違っている。


続きます

僕らのパンケーキストーリーシリーズ↓

ウグンスパンカーカ、その1

ウグンスパンカーカ、その2

最高のパンケーキ、その1

最高のパンケーキ、その2

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