最高のパンケーキ、その5

2021/12/16

チーズフォンデュクラブストーリー

 ☆「最高のパンケーキ」の話の続きです。

前回の話:最高のパンケーキ、その4

昔、大学の寮で暮らしていた頃、ミカエルはベンと2人で、パンケーキばかり食べて過ごしたことがある。

それは早春、灰の水曜日の前日で、告解の火曜日と呼ばれる日の午後だった。

この日は、スウェーデンでは誰もがセムラ(アーモンドペーストとクリームの入った甘い菓子パン)を食べる。

勉強の合間に、小腹が空いたので、ふとそんな話をしたら、ベンも空腹だったようで、じゃあ、それ食べようよ、と答えた。

アメリカで売っているのを見たことはない、とミカエルが言うと、ベンは数学の問題から目を離さないまま、じゃあ、作ろう、とあっさり答えた。

ミカエルは少し困った。セムラは今まで数え切れないほど何度も食べてきたが、自分で焼いたことは、今まで一度もなかったから。

「すまん、ベン。今、パンをこねてる時間は、俺にはちょっとないな。中間テストも近いし、明日の課題さえ終わらない。シュローブチューズデーなのに残念だが」

すると、向こうのテーブルで盗み聞きしていたらしいルームメイトの一人、カナダ人のネイサンが、

「今日はカナダではパンケーキの日だぜ!」と話に割り込んできた。「パンケーキを食って食って、食いまくるんだ!」

「わお。楽しそうだな」ベンが顔を上げてにっこりした。

「それ、やろうよ、ネイサン。なんか俺も、パンケーキをたらふく食べたいような気分なんだ」

「ベン、でも」

ベンが立ち上がろうとするので、ミカエルは慌てた。

「俺の課題を手伝ってくれる約束じゃないか?教えてくれるんだろう?」

「あとで。食べながらやろうよ。パンケーキなら手間かからないだろ」

「だがーー」

しかし、ベンはもうミカエルの方を見ていなかった。ネイサンと喋りながら、共用キッチンの方へ歩いていく。

「待ってくれ」

ミカエルは急いでノートを畳んで追いかけた。


僕らのパンケーキストーリーシリーズ↓

ウグンスパンカーカ、その1

ウグンスパンカーカ、その2

最高のパンケーキ、その1

最高のパンケーキ、その2

最高のパンケーキ、その3



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