☆「最高のパンケーキ」の話の続きです。
前回の話:最高のパンケーキ、その4
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昔、大学の寮で暮らしていた頃、ミカエルはベンと2人で、パンケーキばかり食べて過ごしたことがある。
それは早春、灰の水曜日の前日で、告解の火曜日と呼ばれる日の午後だった。
この日は、スウェーデンでは誰もがセムラ(アーモンドペーストとクリームの入った甘い菓子パン)を食べる。
勉強の合間に、小腹が空いたので、ふとそんな話をしたら、ベンも空腹だったようで、じゃあ、それ食べようよ、と答えた。
アメリカで売っているのを見たことはない、とミカエルが言うと、ベンは数学の問題から目を離さないまま、じゃあ、作ろう、とあっさり答えた。
ミカエルは少し困った。セムラは今まで数え切れないほど何度も食べてきたが、自分で焼いたことは、今まで一度もなかったから。
「すまん、ベン。今、パンをこねてる時間は、俺にはちょっとないな。中間テストも近いし、明日の課題さえ終わらない。シュローブチューズデーなのに残念だが」
すると、向こうのテーブルで盗み聞きしていたらしいルームメイトの一人、カナダ人のネイサンが、
「今日はカナダではパンケーキの日だぜ!」と話に割り込んできた。「パンケーキを食って食って、食いまくるんだ!」
「わお。楽しそうだな」ベンが顔を上げてにっこりした。
「それ、やろうよ、ネイサン。なんか俺も、パンケーキをたらふく食べたいような気分なんだ」
「ベン、でも」
ベンが立ち上がろうとするので、ミカエルは慌てた。
「俺の課題を手伝ってくれる約束じゃないか?教えてくれるんだろう?」
「あとで。食べながらやろうよ。パンケーキなら手間かからないだろ」
「だがーー」
しかし、ベンはもうミカエルの方を見ていなかった。ネイサンと喋りながら、共用キッチンの方へ歩いていく。
「待ってくれ」
ミカエルは急いでノートを畳んで追いかけた。
僕らのパンケーキストーリーシリーズ↓