(アメリカ人のベン。彼の育児日記を抜粋の上、翻訳)
今日はロンを連れて山手線に乗った。改札あたりで冬一郎ちゃんに、
「ベン、悪いけどそこのタキノートイレでオムツ替えてきてくれよ。その間に飲み物買っておくからさ」と頼まれた。
「いいけど、タキノートイレって何?」
「ほら、広くて色々ありがたいトイレのことだよ。行けばわかるから、早く」
促された方へ歩いて行くと、それらしき入り口があった。機械的な女性の声で、「左側が、タキノートイレです。右側が、男性用トイレです…」という案内アナウンスが延々と流れている。
このアナウンスを聞いて、「タキノートイレ=滝のおトイレ」だとピンときた。
俺は俄然、期待を膨らませた。日本のトイレには何度も驚かされている。操作ボタンがずらずら並んだウォシュレットや、音消しのメロディなど、日本に来て間もないときは一々ビックリしたり感心させられたりしたものだ。おまけに冬一郎ちゃんによれば、滝のおトイレは「広くてとてもありがたい」のだ、ときている。俺の脳内には、滝の流れる日本庭園風の室内に、小さい神社とか占い付きの賽銭箱みたいなのが据え付けられたようなトイレがすっかり出来上がっていた。
無論、そんな事はなかった。
オムツ替えを終え、電車のホームに降りると冬一郎ちゃんが待っていた。俺の顔にはなんとなく失望の色が出ていたらしい。
「どうした?オムツ替え頼んだだけなのに、何でそんなに機嫌悪いんだよ」と言われてしまった。
「別に…期待と全然違ったってだけさ」
「?」
話すとめちゃくちゃ笑われそうだから、彼にはしばらく黙っとこう、と思った。